現在ごまんとある為替ブログやメルマガの標題に「最強の・・・」「絶対勝てる」などの自分の取引手法を宣伝した文句が並んでいるが、本当に勝てるのであろうか? 26年もの間、為替の世界に身を置いてきた著者が本音を語った。(バックナンバーはこちら



常勝の為替攻略法などあるのか?

 私は為替の世界に26~27年はいると思う。最初に為替ディーリングと出会ったのは最初に私が就職した東京銀行のバーレーン支店のディーリングルームに赴任した時であった。1982年2月に底冷えする東京を離れて中近東バーレーンのマナマ空港に降り立った時には、2月というのにむっとする蒸し暑さを感じたのを昨日のことのように覚えている。

 そしてホテルに泊まった翌朝5時位の早朝、「アッラー アクバルー(神は永遠なり)」で始まる、コーランの一節を大声で叫ぶスピーカーの声の洗礼を受け「とんでもない所に来てしまった」と思ったものだ。

 それから20数年、現在多くの方々が日々行っているスポット為替取引(デイトレ)を中心に、為替先物(フォワードディーラー―両通貨の金利差の拡大、縮小をアビトラージする取引)、通貨オプションや金利・通貨スワップなどのデリバティブ取引、そしてそれらのプロダクツを顧客にセールスするカスタマーディーラーと一通り経験できたことはラッキーなことであったと思っている。

 さて、本題であるが、現在ごまんとある為替ブログやメルマガの標題に「最強の・・・」「絶対勝てる」などの自分の取引手法を宣伝した文句が並んでいるが、本当に勝てるのであろうか?

 もし絶対に勝てる手法というものが存在するのであれば、私なら他人に話さずに、自分独りでどんどん取引規模を拡大して何十億でも、何百億でも貯め込むであろう。たとえ常勝のトレード法が存在したとしても、その手法が世の中に広まれば広まるほど、その効力が薄れることは市場原理から明らかであるからだ。

 それを覚悟で世に知らしめたいというのは、よほどお人好しか慈善心に富んだ人なのであろうか? 見ず知らずの人に「お金をあげます」と言っているのと同じことなのだから。

「そんなことも分からないのか」式に怒鳴られながら・・・

 今回「為替取引は本当にそんなにもうかるのか」という課題に答える前に、私の略歴ならびに為替のバックグランドを少々触れておこう。

 わたしは昔から万事において不器用というか物覚えが悪かった。バーレーン支店で右も左も分からぬディーリングルームに叩き込まれた時も、一番若輩の駆け出しジュニアディーラーであった私は、ずいぶん先輩ディーラー(たしか今は専務様になったとか)に「そんなことも分からないのか」式に怒鳴られ、「もう日本に帰すしかないな」などといびられたものだ。

 なんとかサーバイブし、東京行きのリターンチケットをロンドン行きに変えたものの、バーレーンとはケタ違いの世界一大きなロンドン市場にあってはまさに「井の中の蛙大海を知らず」だった。

 とんでもなく大きなマネーフローに押し流されて、毎日毎日ヤラレの連続。物覚えの悪さ丸出しで、自身「やはり日本に出戻りだなー」などと観念しながら最初の6ヶ月は毎月赤字の垂れ流しだったと記憶している。

 ところが何が転換点であったか、おそらく1985年10月の、かの歴史的出来事「G5プラザ合意」の後、あたりであろうか。自分でも急に相場が、そして市場が見えてきた思いがした。当時私は一番取引量が多いと言われたドルマルク担当ディーラーであったが、いつの間にかロンドン市場に溶け込んでいき、自分でも「東京銀行の看板を背負っている」との自負心も芽生えてきた。

 自然にロンドン市場のシテーバンク、バンカーズ、EBC、ファースト・シカゴ、主要英銀など当時のビックバンクの有名プレーヤーなどからもお声がかかり、彼らのメジャーリーグへと入って行くことができた。また当時のロンドン市場では、日本勢も隆盛を誇っていた。まだ都銀13行が健在。プラス政府系銀行や大手地銀、そして生損保や商社など多くのプレーヤーが活発にディーリングを行っていた古き良き時代であった。

 その中でも東京銀行は昔の外為専門銀行というネームバリューだけではなく収益面でも邦銀他行を大きく引き離して日本代表として市場で活躍していた。当時は他邦銀のディーラー間でも親近感があり、月次ごとに横の関係で各行の為替収益比較の情報交換を行っていた。

 東京銀行はその中で常に断然トップであったし、我々一ディーラーも誇りを持って市場に参加していたものだ。しかし今考えても、どうして一般の銀行員より若干良いくらいの給料で、昼夜を問わずディーリングの世界に頭のてっぺんまで浸ることができたのかと疑問に思う。

 愛行心か、単にディーリングが好きだったのか、その緊張感やプレッシャーに耐えられたのはやはり当時自分が若かったからであろうが、常に奥歯を噛みしめていたためか当時の名残として、30歳そこそこで私の奥歯はほとんど抜け落ちてしまった。ぽっかり空いた奥歯の跡を見るたびに当時の激しかった日々を思い出す。

外資銀行では環境の違いに戸惑った

 さて私は日本に帰国後35歳位で東京銀行を退社し、米系、スイス系銀行に席を移していくが、いずれも満足のいく結果が得られなかった。

 私が東京銀行ロンドン支店にいた時期の後半には、自分の投機ポジションと日中ディーリングで調子のいい月には2億円程度を稼ぎ、トータルロスの月の記憶はない。もちろん、それだけの大きなロスリミットを付与され、常にゆとりをもって、相場のことだけを考えればいい環境にあった。

 しかし在日外銀に移ってからは大きな環境の違いを感じ戸惑った。ストップロスは極端に小さい。毎月数百万円の利益と損失の間で首をつないでいるディーラーがなんと多いことか。これでは相場の神髄まで達することなど夢のまた夢。

 加えて色々上に取り入ったりする政治力も必要となる。どうして日本の外銀はあれほど夢もロマンもない世界なのか。その後の在日外銀ディーリングルームの衰退を見ればその理由が分かる気がする。結局一部の甘い汁を吸う人間(海外本店へのレポーター)がお友達リーグを作り、いいように動かしているスモールワールドに過ぎないのだ。

 ただ、世界ベースで見れば、欧米の大銀行の本店は邦銀など及びもよらないほどアグレッシブな取引をしていた。わたしが出張で訪れたバンカーズ・トラスト(ニューヨーク本店)などでは、案内されたディーリングルームでは「グローバル・ポジションテーカー」と呼ばれるトップレベルのリスクテーカーが「ひな壇」の上に5人ほど並んでいた。

 ある者は眼をつむったまま、沈思黙考スタイル。電話中のある者はイタリア語で喚き倒している。聞くところによれば皆、多い時には数十億ドルのポジションを有することができる選ばれた人間達だということであった。まさに邦銀のリスク管理の枠組みを超えたアングロサクソン系の凄さであった。しかしそのバンカーズも本店の収益悪化が原因でその名は遠の昔に消えてしまった。(次ページへ続く)



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外資銀行では環境の違いに戸惑った

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プロフィール
ジョー津田ジョー ツダ

本名は津田 穣(つだ みのる)。1978年東京銀行(現 東京三菱UFJ銀)入行。1982年、当時オイルマネーが潤沢であった中東のバーレーン支店において為替・資金ディーラーとしてスタート。ロンドン支店チーフディーラー、本店オプションチーフを務めた後、1990年に外資系銀行(米系、スイス系)に転出し、為替・資金業務に携わる。
1995年に来豪し第一勧業銀行(現 みずほコーポレート銀行)の為替ヘッドとして2007年まで活躍。顧客に的確な市場情報の提供/アドバイスを行い、豪州各地で講演会や市場説明会を実施して顧客の評価を得る。
2008年から知り合いの投資家の運営する AT FUND, Sydneyにファンドマネージャーとして参加し現在に至る。在豪10年以上の間に培った市場関係者との良好な関係を現在も維持し、日本の投資家に向けて市場メッセージを送り続けている。


本記事は、投資や貯蓄などマネーを活用するための情報提供を目的としており、続きを見る


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