金融危機後の米国でリスクを恐れて行き場を失った資金の流出先として注目されているのが、「死亡債」(Death Bond)だ。



 住宅ローン会社やブローカーが返済能力のない低所得者に貸し出した高金利の住宅融資「サブプライムローン」は、2006年夏を境にローンが次々と焦げ付き、不動産バブルの崩壊とともにその後の金融危機の火種となってしまった。

 景気低迷からいまだ立ち直りを見せていない米国では、これまでとは打って変わり節約志向が顕著となり金融市場への投資意欲も著しく減退している。

 そのような中、一部の投資家に注目を集めているのが、「死亡債」(Death Bond)だ。これはまだ生きてる人の生命保険を買い取り、それらを何千人単位でまとめて証券化したものだ。

 たとえば、1億円の生命保険に入っている人に対し、その人が70歳なら2割、75歳なら4割でその生命保険を金融機関が買い取り、この仕組みで数千人規模で集めて、証券化し、ファンドに組み込むというもの。米国のウォール街ではたびたび「薄気味悪い投資商品」と評されてきたが、運用を行うヘッジファンドは保険加入者と投資家の双方にメリットが感じられる金融商品と説明する。

 まず保険加入者にとってのメリットは、本来死亡後に支払われる生命保険が、生前に受け取れるという点だ。保険加入者の中には、金融危機により失業したり投資に失敗した人も多く、彼らにとって月々の保険料は経済的に大きな負担になっている。そこでこれを金融機関が買い取り、その生命保険の受取人になることで、保険の加入者は死ぬ前に現金を手にすることができるのだ。

 従来、被保険者は生命保険会社に対し、解約手続きをして現金を受け取るのが普通だが、その場合、大きな割引率が適用され、被保険者に払われる現金は少なくなってしまう。しかし死亡債ならば、金融機関からそれより多くの現金を受け取ることができる。

 一方、投資家にとってのメリットはリスクが低く、収益が安定しているという点だ。景気がどんなに上下しても人の死亡率にはほとんど影響はない。今回のような世界同時株安で株式価格や原油価格が全面的に下落しても、死亡債への影響はなく、一定の収益が確保される。こういった背景から、死亡債は現在リスクを恐れて行き場を失った資金の流出先として注目を集めており、05年にはすでに9000億円規模の市場を形成しているだけに今後普及する可能性も少なくない。

 もしこの「死亡債」が活性化すれば、販売・運用する金融機関やヘッジファンドの収益につながり、保険加入者・投資家・金融業者の三者全員のメリットになるが、その一方で死亡債には批判が多いのも事実だ。

 主な批判のひとつが倫理面。合理主義の米国においても「人の死」さえ担保にしてしまう金融商品に対する風当たりは強い。加入者が早く死亡すればそれだけ保険金を払う必要がなく、現金も手に入りキャッシュフローの面でも有利になるという商品のシステム上、金融機関は保険加入者が早期に死亡し、満額の保険金を入手することを期待することになる。

 さらに保険加入者には経済的に困っている人が多く、長生きする確率が低いことに目をつけた金融商品だと批判もされている。経済評論家の中には、人の死を待つヘッジファンドを「まさにハゲタカだ」と揶揄する者もいるほどだ。

 また倫理面以外にも、「サブプライムローン」と同様のリスクがあると指摘する専門家もいる。ひとり一人の保険のリスクは明確だが、それをABS(資産担保証券)に証券化する過程で、複雑に混ぜ合わされ、リスクが曖昧になってしまう危険があるのだ。さらに被保険者の死亡後に生前の病気などの情報が報告されていなかったなどの理由で、保険会社が保険金の支払いを拒否するケースも少なくなく、予定していた収益が上がるかどうかは未知数だ。

 日本に上陸する可能性もある死亡債だが、金融商品として普及させるには金融機関にはこれらリスクの説明が求められそうだ。

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