海外投資家の信用を失った鳩山政権
神奈川、静岡の参議院補選でも民主党が勝利を収めた。政権交代の追い風は衰えていないようだ。
何しろ「家計を温める、生活第一主義」を掲げた鳩山由紀夫新総理。子ども手当の支給や農家への個別保障制度。そして、高速道路の無料化や日本版グリーン・ニューディールなど、政治主導のさまざまな選挙公約は景気悪化の先行きに不安を感じる有権者の心を捉えて離さない。
とはいえ、新たなばらまきではないかと危惧する声も根強い。税収が当初の見込みより6兆円も少ない40兆円といわれる状況で、こうした大盤振る舞いをする余裕はあるのだろうか。いくらマニフェストで約束したとはいえ、財源のない政策は自ら首を絞めるようなもの。補正予算3兆円分の凍結では財源不足は否めず、結局は「赤字国債に頼らざるを得ない」(鳩山総理)。
しかも、鳩山政権が公約実現のために欠かせないとする50兆円規模の国債発行となれば日本の国家としての借金は900兆円を超え、英独仏3カ国のGDPの合計を上回ることになる。欧米のヘッジファンドの間では「日本経済は『失われた20年』に突入した」との見方もでてきた。鳩山政権がどこまで持ちこたえるのか。クレディ・スイス証券では「よくて来年まで。税収の埋め合わせに国債発行に頼るようでは、海外の投資家の信用は失ったも同然」との分析を下している。
「チェンジ」できない米国の現実
一方、アメリカではノーベル平和賞に選ばれたオバマ大統領が厳しい政権運営を余儀なくされるようになった。鳴り物入りの公的資金の注入でウォールストリートの金融機関や自動車産業を何とか救出する道筋をつけたものの、国民生活全般を見渡せば中小企業を中心とした破産の増大、失業者や住宅の差し押さえは止まるところがないからである。
いくら「核のない世界を目指す」演説が評価されたとはいえ、国民の間では「美味しい話を散りばめた演説は聞きあきた。生活を何とかしてくれ」といった声が強く、祝賀ムードは見られない。

4600万人もの国民が医療保険に加入できていない状況を何とか改善しようとオバマ大統領は国民皆保険制度の導入に向けて必死の取り組みを続けてきた。しかし、個人の責任を重視する傾向の強いアメリカでは貧困層の医療保険を税金で手当てすることに対しては根強い反発が見られる。そのためオバマ大統領の進める医療保険制度改革に関しても反対の声が依然として強く、大統領の支持率も50%を切るという状況になっている。これほど支持率が急落した大統領はかつていない。
これらの反発も一重にアメリカ経済が思うように回復軌道に乗らないことに原因がある。国民のいら立ちや怒りの感情がオバマ大統領に向けられるようになったのも当然と言えるだろう。「チェンジ」を掲げ、アメリカ経済を一部の富裕層から国民の手に取り戻す、と訴えてホワイトハウスの主になったオバマ大統領であるが、就任後半年を経て急速に国民の信頼を失い始めた。対抗上、ホワイトハウスもFRBも「アメリカ経済は底を打ち、年末から年明けにかけては経済の回復基調が明らかになる」との楽観的見通しを打ち出している。
富の象徴と言われたラスベガスで・・・
しかし、現実にはまったくその逆の流れが進行しているようだ。たとえば、アメリカでは富の象徴と言われたラスベガスの凋落ぶりが目立つ。そこで、かつてのギャンブルやエンターテイメントの中心地をもじって「ロスト・ベガス(失われたベガス)」と題する映画がヒットしている。この映画はアメリカの未来がいかに空恐ろしいものになりつつあるかということを克明に描いたもの。アメリカ人の不安心理をあおっている。
1980年代にアメリカではコスト削減とグローバリズムが経済政策の中心に据えられた。その時点でアメリカは製造業を放棄し、アジアからの輸入に依存する体制にギアをシフトしたのである。安い輸入品が大量に出回った結果、消費者の購買意欲は高まった。アメリカ経済に占める個人消費の比率はそれまでの60%から70%にまで拡大。
一方、それまで工場で働いていた労働者たちは次々と職場を失い、こぞってラスベガスのようなサービスあるいは娯楽産業に活路を見出すようになった。アウトソーシングという美名の下、アメリカは国内の製造拠点を急速に海外に移転させた。その結果、ドルに対する国際的な評価も徐々に低下し、ドルの価値は減少する一方である。アメリカ国内の一般的な生活水準も第三世界並みにレベルダウンすることになってしまった。
ウォールストリート発の金融危機こそ「アメリカの没落の始まり」に過ぎない。国内に働く場所が確保できなければ、いくら知的財産を重視するサービス産業で新機軸を打ち出したとしても雇用の場は少なくなる。2008年の夏以降、アメリカの消費者は財布のひもを固く締め、物を買わない傾向が顕著になった。リーマン・ショックから1年たち、ドルの国際的信用は一層失墜せざるを得なくなっている。

ドルは本当に崩壊してしまうのか
FRBでは事態を打開するため、アメリカ国内で流通するドル紙幣の量を増やそうという計画を進めている。驚くべきことに現在流通しているドルの15倍もの紙幣を増刷し、市場にドルの流動性を提供するとの苦肉の策に他ならない。
しかし、そのような政策を実行すればドルの価値は益々失われることになり、国際基軸通貨としてのドルへの信頼も地に落ちることは火を見るより明らかであろう。ドルが崩壊すれば、ドル預金は価値がなくなるし、ドルベースのクレジットカードに依存した消費者の生活は成り立たなくなるに違いない。
アメリカ国内での資金調達はほとんど不可能になる事態もあり得る。すでに中国はそうした事態を織り込み、アメリカのドルや赤字国債を所有することの見返りとしてアメリカ政府に対し担保物件を要求するという前代未聞の交渉に入っているほどだ。
アメリカではすでに失業率が10%に近づいており、その勢いは拡大する一方である。1920年代から30年代にかけて発生した世界大恐慌時の雇用不安を遙かに上回る厳しい情勢といえよう。健康保険や医療保険に加入できない人々は病気になっても医療を受けることができない。病院の側でも医療費の負担のできない患者には門前払いを食らわせるということがすでに一般化しているのがアメリカである。
こうなれば、職や食を失い、住まいも取り上げられ、病気の治療も受けられないとなるわけで、多くのアメリカ人は自暴自棄になるのもやむを得ない。最も確実に生き延びる方法は犯罪に手を染め刑務所に入ること。三食は保障されているはずだ。
米国で最近売れている家庭菜園用の種子のセットや拳銃
ところが、全米各地の刑務所は州の財政がひっ迫しているため、カリフォルニア州の例を見るまでもなく、受刑者の早期釈放に走っている。それどころか、警察官や消防士、学校の教師など地方公務員に対する給料の遅配や未払いが日常化しており、犯罪や事故、自然災害等の緊急事態に対しても効果的な対策が講じられないほど事態は悪化している。何しろ、オバマ大統領の身辺警備を担当するシークレット・サービスですら財源不足で必要な人員を半分しか提供できていないというありさまだ。
多くの国民が自己防衛の観点から食糧の確保、あるいは銃による護身を心がけるようになっている。このところアメリカで最もよく売れているのが家庭菜園用の種子のセットや拳銃と言われるのも無理からぬことであろう。しかし、いくら食糧を備蓄したとしても治安が悪化し強盗に押し入られてしまえば元も子もない。
それほどまでにアメリカの経済社会情勢はかつてないほど、悪い方向に転がり落ちようとしている。すでに全米50州のうち48の州で税収の大幅減が報告されるようになった。各州とも過去最悪の財政危機に瀕しているわけだ。
このままいけば2011年から12年にかけ全米のほとんどの州において財政がパンクする。本来州の責任で提供されてきた社会福祉や教育に関するプログラムは規模の縮小のみならず廃止されるケースが続出している。州政府が税収不足から住民サービスを縮小ないし中断することになれば、職員も契約先の従業員もレイオフの憂き目を見ることにならざるを得ない。まさに悪循環である。
オバマ大統領は8000億ドルもの緊急支援策をウォールストリートの金融機関には惜しげもなく提供したが、疲弊しきったアメリカの地域経済に対してはまったくと言っていいほど対策を講じていない。アメリカでは8人に1人はまともな食糧が手に入らないという、まさに飢餓的状況に陥っている。問題は失業者やホームレスに限らず、一生懸命働いている人たちの間でも、その稼ぎだけでは満足な食糧が買えないという状況に置かれていることだ。
結果的に3800万人もの人々は政府の発給するフードスタンプと言われる食糧との交換ができる金券に依存しているのである。いつまでこうしたフードスタンプを政府が発行し続けることができるのか。このままでは早晩アメリカの国家財政が破たんすることもあり得るわけで、フードスタンプも支給がストップすることも十分あり得るだろう。
かつてないほど拡大した貧富の格差
アメリカでは富裕層と呼ばれる1%の国民がアメリカ全体の富の30%以上を独占している。トップの10%に拡大すれば、彼らは70%以上の富を手に入れている。これほど貧富の格差が拡大したことはかつてないことである。こういう状態を放置したままではアメリカ経済の再生はあり得ない。
サブプライムローンが引き金となった金融不安は実は改善するどころか、より大きな時限爆弾の発火を目前に控えている。それはサブプライムローンより信用度の高い人々が公的資金を借入れ、住宅ローンを組んでいた「オルターナティブ」と呼ばれるローンの焦げ付きが目立つようになってきたことである。サブプライムローンの主たる契約者はいわゆる貧困層であった。一般の金融機関から相手にされない人々に対し、政府系のローン公社であるフレディーマックやファニーメイが資金を融通してきたのである。
これはいわば民主党による低所得者層に対するばらまき政策以外の何物でもなかった。なぜなら、過去10年間で1300万人もの低所得者の範疇に入る人々が持家を手に入れたからである。彼らのほぼ半分はローン契約の時点で、頭金はゼロ、それどころか定収入もないという状況であった。これでは早晩ローンの支払に行き詰まることは目に見えていた。しかし、不動産価格が右肩上がりで上昇すれば、そうした懸念も必要ないというのがアメリカの政府系ローン会社の無責任な理由づけであった。この構造が破綻したのが、今回の金融危機の大きな理由である。
ところが、オルターナティブ・ローンを組んでいた中間層の人々の間でも今や新たな危機が迫ってきているのである。経済全体が回復しないため、信用度の高かった、これらオルターナティブ・ローンの契約者の間でも雇用解雇や家計破綻という嵐が押し寄せるようになってきた。総額100兆円を超えるとみなされる住宅ローンが焦げ付けば、アメリカ経済は益々立ち行かなくなることは容易に想像できる。
FRBがアメリカ経済は最悪の事態を脱したと楽観的な見通しを述べてはいるが、足元ではいつこの新たな時限爆弾が火を噴くのか予断を許さない。天才投資家と呼ばれるウォーレン・バフェット氏も「アメリカの景気が回復したというのは幻想だ」と断言する。年末から年始にかけてこのオルターナティブ・ローン問題が表面化することになれば、アメリカ経済は二番底に陥ることは避けられないはず。
鳩山総理が「東アジア共同体構想」を通じて、ドルに変わる「アジアの共通通貨」の創設に意欲を燃やすのも、リスク回避の観点から見ればしごく当然のことと言えよう。とはいえ、海外からの信用を失いつつある鳩山政権がアジアの期待に応えられる可能性も限られている。ともに危うい綱渡りを余儀なくされている日米の首脳が11月12日に東京で2度目の会談に臨む。どちらも先のオリンピック招致では失敗した者同士。はたして、今回の首脳会談で得点を稼ぐのはどちらであろうか。
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