Microsoftが米Yahoo!に買収提案
2月になって、Microsoftは米Yahoo!の買収提案を発表した。総額446億ドルで、1株31ドルでの買収提案で、1月31日の終値からすると、62%のプレミアムが上乗せされた提案だ。
これを受けて、米Yahoo!は「ヤフーの価値を過小評価している」と拒否した。今後IT産業における「優勝決定戦」が過熱する可能性があるので、その中での任天堂のポジショニングを考えてみたい。
IT産業の構造
IT産業の構造を考えると、以下のようなレイヤーで示される。消費者はさまざまな端末からネットワークを経由して、アプリケーション、サービスを経由してさまざまなコンテンツにアクセスして時間を過ごすようになる。
これらの各レイヤーは1つの経路ではなく、複雑に絡み合って、産業は形成されている。例えば、ゲーム機のWiiでもメールが可能で、映像コンテンツも楽しむことが可能になっている。音楽配信では、携帯電話経由の「着うたフル」もあれば、PC経由のiTune Storeもある。

水平分業体制
こうした産業構造を前提とすれば、水平的な分業体制が確立されやすくなり、さらに1つのレイヤーの個々の分野ではトップの企業がほとんど独占的な状態を確立することが可能となる。例えば、OSではMicrosoftのWindows。また、かつてはポータルサイトが乱立していた時期もあったが、日本ではヤフー、米国ではGoogleが大きなポジションを占めるようになっている。
一方で、これまでは垂直的なサービスを提供する企業も生き残りづらい状況だった。例えば、パソコンのハードからサービスまでを手がけていたIBMはパソコン事業を売却した。また、Macではハードからアプリケーションまで垂直的に統合した商品を提供しているAppleは、iPodがヒットする前は赤字に陥っていた時期もあった。
逆に、水平的分業体制の象徴としてMicrosoftとIntelの連合という意味の「WINTEL」という造語が作られた。IT産業においては、限界利益率は高いことが多く、数量効果が大きいことから、水平的に数量を稼ぐビジネス形態の方が優位性を確保する可能性が高かった。
しかし、この優位な状況が継続する可能性はそれほど高くないと考えられる。
現在では優位な位置にいても外部環境が激変して、生き残ることすらできない状況となる可能性がある市場ともいえる。この点で「ALL OR NOTHING」、「Winner Takes All」の戦いだろう。例えば、日本での「ポケベル」や「ISDN」など、一時は一世を風靡するほど勢いがあったサービスが現状ではなくなっているケースも多い。
IT産業の優勝決定戦
今後の競争の方向性としては、水平的に独占的なポジションを獲得した企業が他の分野に進出して、垂直的に統合するベクトルが想定される。「ALL OR NOTHING」の戦いの中で、現在の優位的なポジションを確保し続けるためには、他の分野でも優位的なポジションを確保する必要に迫られているといえよう。
すなわち、IT産業における「優勝決定戦」だ。この点で、M&Aは有効な手段となりうる。特に、ある分野の2-3位の企業は、他の分野でトップとなっている企業にとっては魅力的であろう。Microsoftの米Yahooの買収提案はこうした競争のベクトルが顕在化したものといえる。また、Googleの携帯電話向けOS「アンドロイド」もこうした競争のベクトルで説明できるのだ。

任天堂の独自のポジション
こうした競争環境の中で、任天堂は稀有な存在といえる。自社のゲームソフトの開発力をコアコンピタンスとして、「垂直統合」のビジネスを20年前から展開している。しかし、N64やGCの時はその垂直統合ゆえに、苦戦した時期もあった。
ソニーはサードパーティのソフトの割合が高く、垂直的というよりも水平的なビジネスを展開した結果、PS2のときにはGCを大幅に上回る普及台数となった。その結果、株式市場では任天堂は据置型ハードから撤退した方が望ましいという意見が多くなったが、これもIT産業の水平分業体制を考慮すれば、妥当なことだったかもしれない。
ゲームソフトの大手サードパーティのマルチプラットフォーム戦略のように、有力なコンテンツホルダーの戦略はアプリケーション、プラットフォーム以下のレイヤーに対してはすべてに対して互換性を持つことが利益最大化のための戦略であり、任天堂のコンテンツの力を最大化するためにはすべてのハードに対してソフトを供給することが妥当だったかもしれない。
しかし、WiiやDSで成功を収めつつあるのは、自社ソフトの開発力が消費者に高く評価されたからであろう。一方で、産業レイヤーとして、コンテンツ以外のレイヤーが消費者の差別化を認識しづらくなり、コモディティ化していることが考えられる。
任天堂の開発力が競争上、より優位になった
例えば、端末のレイヤーでは、PS3とPS2とは技術的な差は非常に大きいが、多くの消費者はその差ほどPS3を差別化して認識しているわけではないと考えられる。携帯電話会社間の競争でも価格の引き下げが従来よりも重要になっているのもコモディティ化が背景として考えられる。逆にいえば、他のレイヤーと比較して、相対的にコンテンツの価値が上昇していると考えられ、任天堂の開発力が競争上、より優位になったといえる。
さらに、レイヤー間で複雑に絡み合うようになった状況で、消費者の視点からすると、最も効率的にコンテンツにアクセスできるような、利便性が高い垂直的なサービスが求められていることが挙げられる。いかにコモディティになった各レイヤーを組み合わせるか、という視点が重要になっているのだ。
AppleのiPodの成功はこれを示している。任天堂の場合、ハードやサービスは自社のソフトを最大限楽しめるように設計されており、この点は消費者から求められている垂直的なサービスに応えるものといえよう。
こうした産業構造を背景に、任天堂のコアコンピタンスであるソフト開発力が垂直統合によってその強さが増大して、「ゲーム人口拡大」戦略を成功に導いた。その結果、日本ではすでにDSはPS2を上回る普及台数となっている。PS2が全盛の数年前の産業構造は水平分業体制だった。
一方、DSは任天堂の垂直統合されたビジネス展開によって成功したわけだが、それによりPS2の全盛期よりも市場規模は拡大している。かつてGCで敗北しても任天堂が企業として生き残れたのは自社ソフトの力と考えられ、逆に自社ソフトの開発力は高い証拠でもある。それがIT産業の水平分業体制を打ち破り、それ以上の成果をもたらしたといえよう。
任天堂のポジション
今後、WiiとDSが普及して、前回述べたようなゲーム以外のコンテンツのプラットフォーム、サービスとして確立されていく可能性がある。
例えば、テレビに接続されたWiiがテレビをインターネットに接続する標準的な手段となる可能性もあろう。すなわち、テレビをインターネットに接続して楽しむにはWii経由がスタンダードになる可能性がある。このような状況になるには、単にテレビとインターネットを接続するだけではなく、Wii経由ならではの新しいサービスが登場することが必要条件となるだろう。
また、インターネット経由でコンテンツをダウンロードして、DSがiPod、またはiPod以上の端末になる可能性もある。そうなれば、IT産業全体の中でも大きなポジションを占めるようになるだろう。これはゲームにおける垂直統合を他の分野に拡張させていくという点で、前述した水平的に独占体制を構築して、そして他のレイヤーを垂直統合する競争のベクトルとは方向性が異なるといえる。
IT産業の優勝決定戦の行方
もし、数年後に前述のような状況が顕在化した場合、「IT産業の優勝決定戦」において、任天堂のポジションは重要になろう。水平的に独占体制を構築して、他のレイヤーを垂直統合する戦いの中で、任天堂はテレビや携帯端末から垂直的に統合された事業基盤を確立し、IT産業の中で大きなポジションを確保していることになろう。
任天堂としては、優勝決定戦に自ら参加しなくても、他社が、自らのビジネスとどのように任天堂と互換性を確保するか、という視点を持つ可能性がある。互換性といっても、技術的、事業提携、資本提携などのさまざまな手段が考えられよう。逆に、任天堂との互換性が優勝決定戦の優勝者を決定する可能性もあろう。
任天堂は自社ソフトの開発力の高さが維持されていれば、この戦いに参加する必要性はないかもしれない。しかし、かつてはファミコンで株式売買するシステム「ファミコントレード」やN64を利用したインターネットサービスなどを展開した実績を考慮すれば、自らが参加する可能性は否定できないだろう。
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