金融危機の次に「食糧パニック」が到来する
アメリカ発の金融大地震は世界各地に巨大な津波となって押し寄せている。この「100年に1度」といわれる金融パニックの次に控えているのが食糧パニックであろう。
なぜなら世界の人口は1970年の37億人から2007年には67億人へと増加。特に発展途上国においては27億人が55億人へとほぼ倍増しているからだ。すでに世界各地で食糧不足から起こる血なまぐさい争いが絶えない。途上国に限らず、金融危機の震源地であるアメリカでも食糧の買い溜めや家庭菜園に走る市民が急増している。ウォールストリートや首都ワシントンでも食を求めて暴徒化する失業者の動きが懸念されるほど。
加えて、近年新たな変化として注目を集めているのが、バイオ燃料に対する需要とその生産の急拡大である。これまでは食糧として使われていた農作物のうち、特にとうもろこしを原料としたバイオエタノールの需要が急増してきた。
そのため、とうもろこし自体は生産が増加しているが、本来の食糧や飼料用に回される分量が減少することになってしまった。需要が増えた結果、とうもろこしの価格も急上昇することになり、それまでとうもろこしを主食としていた途上国の多くの消費者は米や小麦へ依存する割合が大きくなり始めた。こうした需給関係の変化を受け、米や小麦などの穀物価格も上昇するようになっている。
ところが、地球規模で異常気象が頻発するようになり、1990年代までは食糧の在庫が十分あったにも係わらず、2004年以降は備蓄水準が極端に低下。米の場合は、35%程度であった備蓄在庫量が20%を切るまでになってしまった。また、小麦の場合も35%から20%へ、とうもろこしに至っては30%が15%へといずれも大幅に低下している。
穀物生産の担い手であったオーストラリアを襲った2年連続の大干ばつ、中央ヨーロッパや東ヨーロッパを襲った異常な熱波、そして世界最大の穀倉地帯といわれるウクライナやロシアでの異常な低温による大幅な生産量の低下が世界の食糧事情に深刻な事態をもたらしている。
輪をかけるように、世界各地で水不足や砂漠化の進行が見られるようになった。地球規模で捉えると日本の農地面積を遥かに上回る500万ヘクタール以上の土地が毎年砂漠化の波に飲み込まれている。

たとえば、アラル海では水量がかつての4分の1にまで減少し、周辺の農地では塩類集積が進む。サウジアラビアでは地下水が急速に枯渇し、小麦の生産が大幅に減少。アメリカのロツキー山脈の東側一帯では大規模なスプリンクラー方式の灌漑を進めた結果、地下水位が低下し農業用水の汲み上げができなくなっている。農業大国という一面を持つアメリカですら、地下水の枯渇による農業生産の危機的状況が目前に迫っているようだ。
ヘッジファンドが食糧ビジネスに活路
こうした状況に鑑みアメリカでは遺伝子組み換え(GM)作物への期待と導入が急ピッチで進むようになった。(次ページへ続く)