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【相場師列伝】 世界金融を震撼させた最強ファンド「LTCM」の崩壊劇

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2009/01/08 09:00

 今回も相場の歴史を振り返るシリーズです。今回は史上おそらくもっとも有名で、登場も崩壊も劇的だったヘッジファンド、ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)を取り上げます。(バックナンバーはこちら)

賢い戦法とは言えない「マーチンゲール法」

 筆者は相場に限らずギャンブル全般が好きで、ラスベガスにもこれまでに4回行ったことがあります。カジノの世界では「マーチンゲール法」と呼ばれる必勝法のように"見える"賭け方が昔からあります。たとえばルーレットの赤か黒かに賭けるときのように、勝てば賭け金と同額が得られるようなギャンブルの場合、次のような戦法をとります。

(1) まず1ドル赤に賭ける。勝てば1ドルを得る。
(2) 負けた場合、次は2ドルを賭ける。勝てば最初に負けた分を差し引いて1ドルの勝ちになる。
(3) さらに負けた場合、次は4ドルを賭ける。そこで勝てば2回の負け3ドルを差し引いて1ドルの勝ちになる。
(4) 以降、負けるたびに賭け金を倍にしながら勝つまでつづける。

 こうすると、何連敗しようともただ1回勝ちさえすれば1ドルの利益を得ることができます。そうしたら手順の最初に戻ってやりなおせば、1ドルの勝利を何回でも積み重ねることができるので必勝法というわけです。

 マーチンゲール法の弱点はもちろん負けがつづいたときにあります。賭けをつづけるためには莫大な資金が必要です。勝率1/2のとき10連敗する確率は1/1024なのでかなり低いですが、もしそれが起きた時11戦目にチャレンジできるようにするには2048ドルが必要になります。20連敗(確率100万分の1)に耐えられるようにするなら200万ドル強が必要になります。

マーチンゲール法

 これだけの資金を用意しても、1ドルずつコツコツと勝つことしかできない上に、もし資金が尽きるほどの連敗をすれば壊滅的敗北になるので、マーチンゲール法は賢い戦法とは言えません。

 LTCMのやっていた「高度な金融工学を駆使した取引」は実はカジノでマーチンゲール法でギャンブルをするのと大して変わらないことだったのですが、それを見抜くことができたのはもちろん当時は誰一人いませんでした。

ハリウッド俳優並みに稼ぎ始めたファンドマネージャー

 LTCMは1994年にジョン・メリウェザーという男によって設立されました。
 メリウェザーは1980年代中盤にソロモン・ブラザーズで債権の裁定取引部門を率いており、100人のチームで総勢6000人のソロモンの全収益の半分を稼ぐほどの活躍をしていました。最近批判にさらされたウォール街の破格の報酬が定着したのもこの時期で、1989年にメリウェザーとソロモンは会社にもたらした収益の15%を個人にボーナスとして分配する契約を結んでいます。

 これによって、メリウェザーとその部下たちは得意満面でした。なにしろ、数年前まで大学院生だったようなごく普通の若者や、顧問として招かれた経済学の教授のおじいちゃんが、トム・クルーズやブラッド・ピットと同じくらい稼ぐようになったわけですから。ちなみに、このときのメリウェザーのチームには、後にマネックス証券を設立する松本大氏もいました。

 顧問の教授の中には、マイロン・ショールズとロバート・マートンがいました。ショールズはブラック・ショールズ微分方程式の開発者の一人であり、マートンもこの理論の構築に関わった人物です。ブラック・ショールズ式はオプションの理論価格をはじめて数学的に解明した方程式であり、その結果の方程式のみならず方程式を導きだす数学的なテクニックがその後の金融工学に大きな影響を当たりました。

 いわばこの二人は古典力学におけるニュートン(微積分法を開発)や量子力学におけるハイゼンベルク(不確定性原理を発表)のような大御所だったのです。

債権の裁定取引の魅力にとりつかれたメリウェザー

 ところが、ソロモン・ブラザーズとメリウェザーをスキャンダルが襲います。(次ページへ続く)


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