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『夢をかなえるゾウ』はなぜ売れたのか
失われた世代向けの成功「疑似体験」読本

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 あの話題の「成功本」は本当にあなたにとって有益なのか。心理カウンセラーで成功本アナリスト(?)の高橋聰典氏に「成功を呼ぶ」読み方を聞きました。今回は飛鳥新社の『夢をかなえるゾウ』です。

この成功本はここがミソ!

 計算尽くされた本である。書かれていることは、既存本に出てくるようなことばかり。例えば、「靴を磨く」「トイレを掃除する」「腹八分目にする」など、よく自己啓発本や啓蒙書に出てくる項目だろう。
 では、なぜこんなに読まれているのか。理由は2つある。

 まず、通常の成功本のように、項目立てて解説していくオーソドックスな内容ではなく、物語仕掛けで、ダメな主人公が“ガネーシャ”といわれる象の姿をした神様から、いろんな課題を出されて叱咤激励されながら、成長していく様子を描いている。つまり、読者は主人公になりきり、笑いながら楽しんで成功術を疑似体験していくことになるわけだ。

 これまで多くの成功本が出たが、ここまで見事にストーリー化されたものはなかった。著者の水野敬也氏は、慶応大学在学中から“ホメ殺し屋”などというおもしろいことをやって稼いでいたという。ホメ殺し屋とは、新宿や渋谷などの繁華街の路上で、1分間100円で人を誉めちぎる仕事だ。

 儲かったかどうかは不明だが、こんな発想をする人なら本を書いても、いかにおもしろい構成にするか知恵を絞って考えるだろう。そこで生まれたのが、本書の成功疑似体験方式、つまりサクセス・ロール・プレイイング・ブックというわけだ。

 ベストセラーになったもう1つの理由は、成功本に出てくるような課題をなぜ実行できないか、徹底的に書き込んでいるからだ。そして、成功の神様“ガネーシャ”が課題の重要性をしつこく、ネチネチと主人公に説教するのだ。これまで、いろいろな成功本を読んでも埒があかなかった人も、ここで目が開かされるというわけだ。
 著者の水野氏は、成功本についてあらゆる研究分析しているからこそ、できたワザだと考える。本書が出た後、いろいろな類書が出たが、どれもパッとしないのは、この手のストーリーは抜群の文章力と構成力がないと、最後まで読ませることはできないからだ。その点においても、水野氏は映像メディアの企画や構成などを手がけているだけあって出色だといえるだろう。

 ちなみに、本書は2008年に古田新太がガネーシャ役でテレビ化され、2009年にはゲームソフト化されることが決定している。本を読むよりゲームに親しんでいる世代は、350ページもある厚い本を読むより、ゲームソフトで疑似体験する方が手っ取り早いかもしれない。

 本書の主な読者は、90年代に新卒として就活をして敗れ去ったいわゆる“失われた世代”で、いまやフリーターとか派遣社員として社会の底辺で暮らす貧困層だと推定できる。派遣切りや傭い止めで虐げられている彼らは少しでも、希望を見いだそうとして、成功本を何冊も読み、いつかは地獄の貧乏生活から抜け出したいと考えているのだ。

 しかし一方で、何回脱出を試みてもダメだということをうすうす気づきつつあるが、自分ではどうしても認めたくない。この心理をうまくくすぐりながら、小説化して、その後テレビ化して、最後はゲーム化という儲かるビジネス体系ができあがっているようにみえる。これぞ巧妙な貧困ビジネスと呼んでもいいかもしれない。

 次に本書の読み方を探ってみよう。(次ページへ続く)


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著者プロフィール

  • アイブックコミュニケーションズ(アイブックコミュニケーションズ)

    2000年、書籍の編集制作を専門とする出版OEMカンパニーとして設立。既存の編プロ事業ではなく、自ら積極的に企画をプロデュースして、ソフィアバンク副代表でマネーキャスターの藤沢久美氏やドイチェ・アセット・マネジメントのチーフストラテジスト松尾健治氏、人気歴史作家の関裕二氏などによる、数多くの書籍を制作して好評を博する。2007年には、書籍の制作プロデュースで培ったスキルを活かして、Web部門にも進出。以後、アクセスが集中するような有力記事を配信し続けている。アイブックコミュニケーションズのホームページはこちらから

  • 高橋 聰典 (監修者)(タカハシ ソウスケ)

    1973年東京都生まれ。高度経済成長が終焉を迎えたオイルショック時に生を成し、戦後の右肩上がり経済の中で安定成長期と呼ばれている時代に、一般的な中流家庭で幼少期・青年期を過ごした。公立の小学校、中学校、中レベルの高校という学生時代を通して、ごく普通の人間であったが、その後ロストジェネレーションの特徴でもあるニートやフリーターとして、うだつの上がらない生活を経験。社会人に成れない、人と親密な関係が築けないなどの屈折した自身の心を、どうにかしたいと模索する中、心理学に出会い、さまざまなセミナーに通い詰め、精神的な成長を遂げる。
     そして現在、心療内科勤務・カウンセラー養成スクールの講師経験を生かし、心理カウンセラー・メンタルコーチとして企業研修・教員研修・カウンセラー育成・子育て支援を業務とする株式会社マインドサポートを起業。

本記事は、投資や貯蓄などマネーを活用するための情報提供を目的としており、続きを見る

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