日本化の岐路に立つ米国経済
米国の長期金利が急低下し、「米国経済の日本化」が危惧されています。雇用は回復が遅れ、金融機関は貸出先を絞り、余った現金で国債を購入しています。
インフレ率も低下しており、デフレの不安が高まっています。日本化とはどういう現象であるのか? 今回はその1つである不動産バブル後の産業構造の歪みを取り上げます。
不動産バブルによって生じる産業構造の歪み
不動産バブルは、様々な問題を引き起こします。例としては、不動産など資産価格の値上がりによる過剰消費、不動産価格の値下がりによる不良債権の発生と貸し渋りなどです。
それに加えて、経済の教科書に載っていないもう1つの深刻な問題があると考えています。不動産バブルはその好況が長期間にわたるという特徴から、住宅・建設・不動産セクターの肥大化という産業構造の歪みを引き起こします。
より具体的に言えば、米国では不動産バブルピークの2006年1月に新築住宅着工が月間200万戸に達しました。2001年1月は約150万戸でしたので、5年間で1.4倍になったということになります。
住宅着工が増えたため、建築関係、不動産仲介販売関係、住宅ローン関係など大きく雇用が生み出されました。これが住宅セクターの一時的な好況であれば、労働者はすぐ別のセクターへ転職することが可能なのですが、好況は5年間以上と長期に及んだことが、労働者がこのセクターに固定化されるという構造的な問題を引き起こす原因となります。
バブルの崩壊により、肥大化したセクターから大量の失業者が発生しました。これらの失業者は、通常の景気減速により発生し、景気の回復と共に回復する失業とは異なり、バブルという回復する見込みのない需要に対応した失業であるため、失業が必然的に長期化します。
米国の雇用に関して、世間のエコノミストは教科書通りに「景気の自律的回復」「雇用の自立的回復」という切り口で議論をしていますが、産業構造の歪みとその歪みの修正過程である長期的失業という切り口での議論はあまり行われていないように思います。
回復しない需要をあてにした失業であるため、失業が長期化します。産業構造の歪みが解消され、これらの失業者が職を得るためには。失業者が職種を変える必要があります。しかし、慣れ親しんだ職種を変えることは難しく時間がかかります。これが不動産バブル後の不景気と失業が長期化する理由の1つです。
日本の景気が回復しなかった理由
1990年以降、日本の景気は本格的に回復することなく、「失われた10年」最近では「失われた20年」と言われています。この日本の長期的な低迷の理由に、この産業構造の歪みがあると考えています。(次ページへ続く)