株を売り続ける米国の個人
「株式の保有が資産運用の基本」のはずの米国の個人が株を売り続けています。ところが米国企業の業績には現在まったく問題はありません。市場は株価が「割安」と判断しているのですが、株は売られ続けているという現象が続いています。
リーマン危機後のリストラで、多くの企業が筋肉質になり業績が大幅に改善しています。しかし、投資資金が逃避し、株をが売られている限り、大幅な株価の上昇は望めません。株価の下落がまた逃避を呼ぶという株からの資金逃避スパイラルに陥っているようです。
株価の下落が招く負のスパイラル
米国民は、保有金融資産における株式の割合が高いことで知られています。そのため、株価が上がれば個人消費が伸びて景気が良くなるという具合に、米国の景気、中でもGDPの70%を締める個人消費は、株価への感応度が高くなっています。
実はこの傾向は株式の保有割合の低いはずの日本でも同様で、株価が上がれば人々のセンチメントが上昇して財布の紐が緩くなり、個人消費が伸びて景気が回復します。つまり株価の動向は、企業業績、雇用などどんな指標より景気に影響を与えます。
その大切な株式から資金が逃避し、価格が下落しています。そのため人々のセンチメントは落ち込み、個人消費は伸び悩んでいます。業績が大幅に改善したはずの企業も、将来の成長へ自信が持てず新規の設備投資や雇用を見送っています。株価と景気の長期低迷は、人々の将来への期待を低下させ、さらに株価の低迷を招きます。まさに株価の下落が招く負のスパイラルです。
低金利と好調な企業業績という株式には絶好の環境にも関わらず進行する、「米国個人の株式売り」という負のスパイラルの原因を考えてみました。
脚光を浴びるプロスペクト理論
ここで脚光を浴びるのが「プロスペクト理論」と呼ばれる人間のリスクを伴う決定判断についての理論です。「行動経済学」という呼び方の方が有名かもしれません。実験的には明確に検証できるものですが、数学で記述された金融工学との折り合いが悪く、金融の教科書にはほんの少ししか出てこない理論です。
理論というと難しそうに聞こえますが、例えば、
1. 人々が宝くじを買う理由 → ほとんど起こることのないような小さい確率の過大評価
2. 元本保証の商品が売れる → 損失に対する傷みが大
などと書くと非常になじみのある考え方でしょうか。プロスペクト理論を使い、いま株を売り続けている米国個人の行動を説明してみましょう。(次ページへ続く)