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拡大した経常収支黒字 -客員エコノミスト 塚崎公義教授-

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2016/02/19 09:00

 (要旨)
・ 2015年の経常収支黒字は前年比6.3倍に拡大
・ 主因は資源価格下落であり、外国人旅行客激増も寄与。円安は寄与せず
・今後については輸出入数量次第の面が大
・「経常収支黒字が拡大したから円高」とは言えず

(おまけの要旨)
・経常収支とは、貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計で、家計の黒字赤字と似た概念の統計
・一般論として経常収支黒字が好ましいとは言えないが、少子高齢化を控えた今の日本では好ましい

(本文)
・経常収支黒字は大幅に拡大
2015年の経常収支黒字は、2014年の2.2兆円から13.9兆円へと大幅に増加した。倍率にして6.3倍増、金額にして11.7兆円の増加であった。黒字額の水準としても、過去最高の黒字が2007年の20.8兆円であった事を考えると、充分に大きな黒字額であったと言える。
増加の主因は資源価格下落であった。鉱物性燃料の輸入金額が9.5兆円減少しており、円安が進まなければ鉱物性燃料の輸入金額の減少幅は更に大きかったと思われる。
旅行収支の受取が1.1兆円増加している事も、経常収支黒字拡大の一因であった。外国人旅行客の増加による「爆買い」のみならず、宿泊、交通機関利用などの増加を映じたものであった。

・円安は経常収支黒字拡大に寄与せず
為替レートが円安になった(2014年平均に比べて2015年平均は14%円安)ことは、経常収支黒字の拡大に寄与していない模様である。
まず、本来ならば円安後3年も経てば実現するはずである輸出数量増、輸入数量減が実現していない。この点については、本欄2月1日付の拙稿「原油安で貿易収支が大幅改善」の「おまけ」を御参照いただきたい。
今ひとつの可能性として、日本が受け取ったドル金額を円建ての統計に表すときに、ドル高円安だと金額が大きく見える、という効果が考えられる。
実際、第一次所得収支(投資収益の収支。おまけ参照)に関しては、円安により、ドル建ての受取部分が円建て換算で拡大した効果も大きかった。日本の場合、投資収益の受取はドル建てが多く、支払いは円建てが多いので、ドル高円安になると、自動的に第一次所得収支の黒字が膨らむのである。
しかし、日本の場合、輸出と輸入が概ね同額であり、輸出の方が円建て取引の比率が高いため、貿易については日本のドルの支払い超過となっている。これが第一次所得収支の増加分を相殺してしまうのである。

・今後については輸出入数量次第の面が大
2015年の経常収支を季節調整値で見ると、特段のトレンドは見られないため、今後の経常収支については黒字が増加するか否か、過去のトレンドからは判断出来ない。(仮に年初から年末にかけて黒字が増えて来たとすれば、年末の水準が来年も続くと考えて、来年は黒字が増えると予想できるのだが・・・)。
そうなると、今後については輸出入数量次第という面が強くなる。まず、資源価格が急に上昇するとは考えにくい。世界経済の見通しは比較的暗めのものが多く、特に資源価格に大きな影響を与える中国経済を巡っては、実態がよくわからない事も有り、楽観的な見通しは当分の間は強まらないであろう。原油については、イランの原油供給増加などの値下がり要因がある事に加え、ある程度油価が戻ればシェールオイルの生産が増加する事も考えられるため、戻ったとしても小幅な上昇にとどまる見込みである。
次に、為替相場はどう動くか不明だが、上記のように為替変動が直接的に経常収支黒字額に影響を与えるわけではない。
そうだとすると、過去の円安がタイムラグを経て輸出入数量に影響するか否かが最重要な注目点となろう。

・「経常収支黒字が拡大したから円高」とは言えず
経常収支黒字の拡大は、ドル売りの実需が増えることを意味するので、円高の要因ではある。しかし、為替の取引額は巨額であり、経常収支黒字が為替相場に与える影響は限定的と考えておくべきであろう。
たとえば最近、対外直接投資が増加している。少子高齢化で人口が減って行く国内に固執せず、広く世界に需要を求めようという動きを映じたものと思われる。また、対外証券投資も日米金利差が拡大していけば増えて行くであろう。これらは円安要因であり、経常収支黒字拡大の円高効果を打ち消す方向に働く力である。更には、為替相場は思惑によって動く面が大きいので、「皆が円安だと思えば皆が円を売るので実際に円安になる」という事も頻繁に生じている。
したがって、今後の金融市場を予想する上では、経常収支の予想はそれほど重要ではない。しかし、将来の日本経済を考える上では、経常収支は極めて重要な指標なのである。その理由は、「おまけ」を御参照いただきたい。

(おまけ)
・経常収支とは、貿易・サービス収支(貿易収支+サービス収支)、第一次所得収支、第二次所得収支の合計で、家計の黒字赤字と似た概念の統計

経常収支というのは、貿易・サービス収支(貿易収支+サービス収支)、第一次所得収支、第二次所得収支の合計である。貿易収支は財の輸出−輸入、サービス収支はサービスの輸出−輸入であるが、両者は本質的に同じ物であるので、財・サービス収支と括られる。その本質は、日本人が働いて外国人が良い思いをして、その対価を日本人が受け取るのが輸出、反対が輸入である。日本人が自動車を作って外国人が輸入してドライブに行く場合(財の輸出)と、日本人料理人が料理を作って外国人訪日客が日本料理を楽しむ場合(サービスの輸出)と、本質は同じである。
第一次所得収支というのは、日本人が海外に持っている株や債券などの配当や金利の受取額から、外国人が日本に持っている株や債券などへの配当や金利の支払額を差し引いた金額である。
第二次所得収支というのは、日本政府の行なった途上国援助の一部である。
これらの合計が経常収支であるが、これは家計の黒字赤字と似ている。会社のために働いて給料を受け取るのが財・サービスの輸出(自分が働いて会社が成果物を得て自分が対価を受け取る)、消費が輸入(他人の労働の成果を金を出して入手する)、銀行預金の利子が第一次所得収支、赤い羽募金が第二次所得収支に該当する。それらの合計は、家計の黒字赤字であり、黒字なら資産が増加し、赤字なら資産が減少する。
つまり、経常収支が黒字であれば、その分だけ日本国全体として外国に持っている資産が増える(又は負債が減る)ことになるのである。この資産と負債の差額が対外純資産であり、日本は過去の経常収支黒字により、巨額の対外純資産を持っているのである。

・一般論として経常収支黒字が好ましいとは言えないが、少子高齢化を控えた今の日本では好ましいと言える

一般論としては、経常収支の黒字が好ましいとは言い切れない。たとえば途上国は外国から設備機械を輸入して工業化すべきであり、その結果として経常収支が赤字になること、輸入代金を外国から借りる事は問題ない。むしろ諸外国が資金を貸してくれずに設備機械が輸入出来ずに経常収支が赤字にならない方が問題である。
若者が多い国は大いに物を作って輸出して経常収支を黒字にすべきであり、高齢者が多い国は経常収支が赤字になってもかつて経常収支が黒字であった時に外国に預けてある資金を取り崩せば良い。
また、景気が過熱してインフレが心配な国は輸入を増やしてインフレを抑えるべきであり、その結果としての経常収支赤字は問題ない。国民が好景気で豊かな生活を謳歌しているからである。一方、輸出先が見つからないために経常収支が赤字で、しかも輸出企業が倒産して労働者が失業しているなら大問題である。
こうして考えると、現在の日本においては、経常収支が黒字であることが望ましい。一つには、景気が今ひとつであり、輸出企業の設備稼働率が今ひとつであるため、輸出が増えて経常収支が黒字になる事が望ましいからである。今ひとつには、今後急速な高齢化が進展することがわかっているので、今のうちに経常収支の黒字を稼いで外貨資産を溜め込んでおくことが望ましいからである。

(2月10日発行レポートから転載)




【提供:TIW



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