米国の長期金利と市場環境への影響
米国の長期金利の動向が注目されています。投資家にとって気になるポイントを見てみましょう。

金利上昇は国家、企業、家計の金利負担の上昇につながるため株式投資家にとってのリスク要因であるほか、金利上昇は既発の債券価格の下落を伴うため債券投資家にとってもリスク要因です。本稿は以下のような視点で、米国の長期金利と市場環境への影響を分析します。
- 今回の長期金利の上昇は過去の長期金利上昇とは状況が異なる。
- 長期金利だけでなく短期金利も上昇しており、長短金利差の逆転は景気後退のシグナルに。
- 影響が大きいのは新興国の株式と債券。
反転し始めた米国の長期金利
図1は、1998年から2018年5月までのNYダウ平均株価と米国の長期国債の利回りの推移です(2018年5月は30日までのデータ、以下同じ)。本稿において長期金利は長期国債の利回りを指します。
図1を見ると、長期金利の上昇局面は何度か発生していることが分かりますが、今回の長期金利の上昇は過去の長期金利上昇局面とは景気がピークに近く、かつ、財政状況が悪化している状況下であるという点で異なっています。景気動向は失業率で見ると趨勢が分かりやすいでしょう。すなわち、失業率が低下しているときは景気の回復局面、失業率が上昇しているときは景気の後退局面と見ます。
図2にあるように、2013年から2014年の長期金利上昇局面では失業率は6%を超えている状況であり、過去と比較して景気回復の中盤と言える状況でした(失業率と財政収支のデータは4月まで)。その前の長期金利上昇局面である2009年末から2010年は、金融危機を乗り越えて株価反発が見られ、景気回復への期待から株式が買われて債券が売られた時期でした。財政収支が大幅にマイナスであったのは現在と一致していますが、失業率の上昇に歯止めがかかり、不景気からの脱却が期待されたゆえでの長期金利の上昇でした。
現在の失業率が歴史的な低水準であることを踏まえると、景気はピーク圏にあると思われます。景気回復期待による長期金利の上昇というより、トランプ政権下での減税や財政出動による財政収支悪化を懸念した国債売りの裏返しであり、決して楽観視できるものではないと言えるでしょう。
短期金利の上昇
長期金利の動向に注目が集まりがちですが、より心配なのは短期金利の上昇です。図3にあるように長期金利だけでなく短期金利も上昇しています。本稿では短期金利として2年国債の利回りをとっています。返済期間が長くなるほど借り入れ金利が高くなるように、通常、短期金利よりも長期金利の方が利回りは高くなります。しかし、過去には短期金利と長期金利の利回りが逆転したことがあり、これは景気の後退のシグナルとされます。
図3の点線で囲んでいるところが長短金利が逆転した局面です。最近の長短金利差は0.50%を割ってきており、景気後退のシグナルが出るのも時間の問題であると言えそうです。
本記事は、投資や貯蓄などマネーを活用するための情報提供を目的としており、続きを見る