「キャッシュレス化」の文脈
マネーフォワードFintech研究所長の瀧 俊雄さんが金融業界の動向を解説する本連載。第2回は「キャッシュレス化」を取り上げます。
日本のキャッシュレス化はとりわけ「未来投資戦略2017」で、当時21%ほどだったキャッシュレス決済比率を2027年までに現在の2倍の4割程度にしようという目標が掲げられたあたりから、メディアでも取り上げられるようになってきました。

ただ、日本でのキャッシュレス化の盛り上がりは、もともと「フィンテック」というより「インバウンド消費」が生み出したものと言えます。ご承知の通り、日本の人口が減っていく中で政府は観光産業を重視しており、政府目標として外国人旅行者数を2020年に4000万人、2030年に6000万人にしたいと考えています。
しかし支払のほとんどが現金ということになると、旅行者はわざわざ両替商で手数料を上乗せして円に両替しなければならない。それよりも、海外から来た人に気持ちよくクレジットカードでお金を使ってもらったほうがいい。もちろん、2020年の東京オリンピックはその大きな山場となります。つまり「キャッシュレス化」のモチベーションはある意味、「未来投資戦略」とは関係なく存在していたのです。
その一方で、日本における決済の状況を変えようという動きが、2017年以降ギアを変えて始まりました。「キャッシュレス決済比率を20%から40%にする」という話もその一環なのですが、日本の国民が押しなべて現金と付き合っているこの状況を変えていかなければならない。そのために何ができるかということで整理を始めたのが、2017年3月に経済産業省が立ち上げた「クレジットカードデータ利用に係るAPI連携に関する検討会」だったわけです。
この検討会は名前の通り、もともとはクレジットカードのAPI連携の促進に関するものでしたが、経済産業省のサイトでは名前の末尾に「(キャッシュレス検討会)」と付いています。この検討会は2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」「クレジットカードデータ利用に係るAPIガイドライン」という2つの文書を公開しました。データを使うということはAPI化にもフィットします。クレジットカードのAPI連携を検討し、ある程度結論が見えてきた中で、せっかくこれだけフィンテックのプレーヤーが集まっているのだからキャッシュレス化について検討しようと。それが一昨年から昨年の4月にかけての議論でした。
キャッシュレス決済比率の目標はすでに達成している?
キャッシュレス決済比率については、未来投資戦略が出て1年以上たった2018年11月のタイミングで、金融審議会で「実はすでに50%以上に達しているのではないか」というカウンターの議論が出てきました。振込(銀行口座間送金等)を含めていないというのがその指摘です。

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前述のキャッシュレス決済比率40%というKPIは他にも色々な指摘が可能です。もう少し補足すると、この計算はGDPのうちの個人消費を分母に置いて、分子にはデビット決済、クレジット決済、電子マネー決済の数字を入れています。
なので、分母の個人消費が付加価値の合計で計算されるのに対して、分子の利用額は利用額の総額から計算が行われています。たとえば私がクレジットカードで、小麦や小豆を100円で仕入れて、アンパンを作って300円で売ったとします。GDP統計上、原材料費100円でそれを300円で売った場合に、売上から仕入れを引くので、付加価値計算上は100円と200円、合計300円が個人消費として計算されます。
しかし、この統計ではおそらくすべてグロスで100円と300円の400円が分子に入っている。ある意味比較できないもの同士の比率を計算しているということになります。ちょっと通好みな指摘かもしれませんが。