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個人情報それ自体に経済的価値はあるのか? プラットフォーマーとデータエコノミー

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2019/10/08 10:00

 さまざまなデータを活用して新たなビジネスを生み出すデータエコノミーの時代に、GAFAをはじめとするプラットフォーマーの存在は大きい。しかし「個人情報それ自体に経済的価値があるのか?」と指摘する声もある。

デジタル・プラットフォーマーと消費者との取引についての懸念

 8月29日、公正取引委員会は、2018年12月18日に発表した「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」の中で、「サービスの対価として自らに関連するデータを提供する消費者との関係での優越的地位の濫用規制の適用等,デジタル市場における公正かつ自由な競争を確保するための独占禁止法の運用や関連する制度の在り方を検討する。」と記している。

 デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用規制の考え方を明確化するため、同委員会は「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」を作成。8月29日に関係各方面からの意見募集を開始した。

 パブリックコメントの募集は9月30日に締め切られたが、一般財団法人情報法制研究所(以下、JILIS)の個人情報保護法タスクフォースは同日、JILISが提出した意見を公表した。なお、この意見は、独占禁止法上の考え方としての方向性に賛否を述べたものではなく、個人情報保護法制に関係する記載部分について改善点を指摘したもの。

個人情報に「経済的価値」はあるのか? JILISの指摘

 JILISの文書(以下、意見書)では、「考え方(案)」について3つの意見を表明している。このうち最も長い記述となっている「意見2」は、「考え方(案)」における「対価」「経済的価値」「経済上の利益」に関する記述について意見を述べている。以下、JILISの意見書から「意見2」を引用する。

※編集部注:同意見書後述の「理由」についての参照情報を削除し、一部改行を変更しています。

意見2
【該当箇所】2、4、5、6頁の「対価」、2頁 の「経済的価値」、5頁の「経済上の利益」に係る記載

【意見】
考え方案は、個人情報それ自体に「経済的価値」を認め、その提供が「経済上の利益」の提供となることを前提とし、消費者においても自身の個人情報がサービスを受けることへの「対価」として認識していることを前提としている。

しかし、個人情報保護法が個人情報を保護する理由は、個人情報に経済的価値があることを前提としておらず、「個人の人格尊重の理念の下に」(同法第3条)「個人の権利利益を保護することを目的」(同法第1条)としたものである。

考え方案のこれらの記載は、個人情報が法により保護される理由が「経済的価値」にあるとの誤解を増長させるものであり、国民に個人情報保護法の目的を見失わせ、同法の運用をさらなる混乱に陥らせる危険がある。

同様の混乱と問題点の指摘は、EUにおいてもなされており、2015年に欧州委員会が提案した「デジタルコンテンツ供給契約指令案」において「data as counter-performance」(対価としての個人データ)との語が用いられていたことに対し、EDPS(欧州データ保護監督機関)がこれを避けるよう批判して、「counter-performance」の語が削除された経緯がある。

もし、消費者が自身の個人情報の提供を「対価」として捉えるようになれば、個人情報の利活用が阻害されることにもなるので、個人情報の利活用を促進すべきとする経済産業省その他の政府の方針にも矛盾する自滅的な考え方である。

個人情報がデジタル・プラットフォーマーにおいて「経済上の利益」となることは事実であるが、個人情報に経済的価値を見出すのはデジタル・プラットフォーマー側の都合によるものにすぎないのであるから、個人情報それ自体に経済的価値を認めるのではなく、デジタル・プラットフォーマーにおいて片面的に「経済上の利益」が結果的に生ずることに着目し、それを条件として消費者がサービスを享受することを「取引」に該当するものとして整理すれば、本件考え方の目的に足りるはずである。

したがって、これらの「対価」「経済的価値」「経済上の利益」に係る記載は次のように改めるべきである。

①「経済的価値」「経済上の利益」については、個人情報それ自体に内在するものと誤解させる記載を避け、デジタル・プラットフォーマー側において結果的に生ずるものといった記述に改めること。
②消費者の認識として個人情報が「対価」となるかのような記載を避けるため、「対価」の語を用いないようにし、「消費者が個人情報の提供を条件としてサービスを享受する場合」といった記述に改めること。
(引用、ここまで)

データ提供はサービスを利用するための「対価」なのか?

 JILISの意見書では、「考え方(案)」にある一部の記載について、以下のように改めるべきだとしている。

「考え方(案)」1ページ

「個人情報等の取得又は利用と引換えに財やサービスを無料で提供するというビジネスモデル」
 ↓
「個人情報等の取得又は利用を条件として財やサービスを無料で提供するというビジネスモデル」

「考え方(案)」2ページ

 

「個人情報等は……の情報を含み、デジタル・プラットフォーマー事業活動に利用されており、経済的価値を有する。」
 ↓
「個人情報等は……の情報を含み、デジタル・プラットフォーマーにおいて事業活動に利用することにより経済的価値が生じている。」

「消費者が、デジタル・プラットフォーマーが提供するサービスを利用する際に、その対価として自己の個人情報等を提供していると認められる場合は」
 ↓
「消費者が、デジタル・プラットフォーマーが提供するサービスを利用する際に、自己の個人情報等を提供することを条件とされていると認められる場合は」

 以上は指摘の一部だが、なぜこのように記述を改めるべきなのか?

 JILISの意見書によると、個人情報を保護する理由として個人情報に経済的価値があることを前提としていないことは、個人情報漏えい事案についての人格権侵害を理由とする損害賠償請求の裁判例(最判平成15年9月12日民集57巻8号973頁,最判平成29年10月23日判時2351号7頁参照)が、財産的損害の問題とせず、精神的損害(慰謝料)のみの問題としていることからもうかがえるという。

消費者が個人情報の提供を「対価」ととらえると何が起こるか

 もうひとつ、JILISが指摘している懸念がある。消費者が自身の個人情報の提供を「対価」として捉えるようになると、個人情報の利活用が阻害されることになるというものだ。

 個人情報保護委員会のガイドライン(Q&AのQ2-5、以下参照)で示しているように、本来目的で保有している個人情報をもとに、複数の個人の個人情報を統計量に集計した「統計データ」を作成して利用することは、「個人情報の利用」には当たらない。

 個人情報のビッグデータとしての利活用の多くはそのような利用形態であり、本来それは制限されていない。このようなルールになっているのは、個人情報それ自体に経済的価値を見いだしているわけではないからこそだとJILISは指摘している。

 しかし、今回の「考え方(案)」のように、個人情報を「対価」「経済的価値」として捉えるような考え方を政府が広めるようなことになれば、消費者は自身の個人情報の提供・利用に対価を求める(そうでなければ自身の個人情報を提供しない)ようになって、ビッグデータ利活用が阻害されてしまう。このような混乱を防ぐためにも、データエコノミーの仕組みを理解し、こうした言葉の意味するところをあらためて問い直す必要がありそうだ。

 政府は、個人情報保護法の施行後3年ごとに、国際的動向や情報通信技術の進展、個人情報を活用した新たなビジネス創出などを踏まえて見直しを行うとしている。2020年がその3年目にあたる。

 また、公正取引委員会は、デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する取り組みは、個人情報保護委員会と必要な範囲で連携を図るとしている。

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