スーパー・ヘッジファンドと呼ばれる理由
現在、世界には40を超える「国富ファンド」(SWF)が設立され、積極的な投資活動を繰り広げている。国富ファンドは一般的には政府系ファンドとも呼ばれ、歴史的に最も古いのはクウェートのファンドで、イギリスから独立を勝ち取る8年も前の1953年に誕生。その他、ノルウェーやシンガポールの政府系ファンドも長年にわたり、着実に高いリターンを稼ぎ出している。しかし、多くの政府が独自のファンド設立に動き始めたのは2005年以降のこと。意外と最近の現象なのである。
もちろん、国富ファンドといっても千差万別。「ヘッジファンドの帝王」と異名をとったジョージ・ソロス曰く、
「各国のSWFはみな独自の戦略を持っている。中東のファンドと中国では全く違う。シンガポールもロシアも政府系ファンドは見事に別物だ。同じ生き物と捉えると判断を誤る。たとえば、中国は西側の先端技術を取り込むことに主眼を置いている。ロシアの場合は自国のエネルギーを売りさばくインフラ整備に力点を置く 」。
バブル崩壊の恐れのある中国では、国内の不動産価格の下落に備えた3500億ドルのファンドも組成されたほど。このような個別の投資戦略の違いはあるものの、一般的に国富ファンドは「スーパー・ヘッジファンド」と呼ばれることが多い。
なぜなら、資金規模の大きさにおいても、長期的な資産運用の取り組み姿勢に関しても、従来のヘッジファンドに比べ、遥かに大きな力を誇示しているからである。
しかも、意図的に情報開示を避ける傾向が強く、運用資産額や投資先を一切明らかにしないケースも多い。正確な数字はないが、IMFの推計では2兆ドルから3兆ドルの規模と見られている。
自前の政府系ファンドを立ち上げた中国
中でも最大のものはアラブ首長国連邦が誇るアブダビ投資庁で、8750億ドルの運用資産を有すると見られる。そして最近、新たに市場参入を果たしたのが中国である。2007年5月、自前の国富ファンドを立ち上げた。その名は「中国投資有限責任公司(CIC)」。同ファンドは2000億ドルの資産からスタートした。すでに1兆5000億ドル近い外貨を保有する中国。国内経済を円滑に発展させるために必要な資源調達コストをカバーする上でも、ハイリスク・ハイリターンの外貨運用に走らざるを得ないのである。
アメリカのクリントン政権時代に財務長官を務めたラリー・サマーズによれば、世界の国富ファンドの総資産は2010年までに5兆ドルを超え、さらに2015年までには、その倍以上の12兆ドルにまで膨れあがるという。20世紀末には「世紀末の妖怪」と恐れられたヘッジファンドの預かり資産が、現在では世界全体で1兆6000億ドルといわれる。ということは、国富ファンドの総資産は、既にヘッジファンドを100兆円近くも上回ることになる。
その上、サマーズの予測通りに拡大が続けば、この5年以内に世界の外貨準備高をも上回ることになりそうだ。なぜなら、国富ファンドの拡大ペースが外貨準備の拡大ペースを追い抜くからである。国富ファンドという名の巨大な資金が世界の金融市場に与えるインパクトは強まる一方と言えよう。
赤いハゲタカと揶揄される中国の政府系ファンド
2007年12月、中国のCICはアメリカの証券大手に対して50億ドルの出資を表明し、世界を驚かせた。出資先はいみじくも政府系ファンドを分析し続けてきたモルガン・スタンレーである。(次ページへ続く)